2024年1月スタートの日曜劇場「さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~」。
ドラマの音楽監修を務めるのは、世界的指揮者で東京音大指揮科教授でもある広上淳一氏ということもあり、クラシック音楽好きは劇中で使用されるクラシックの曲も楽しみにしている方は多いのではないでしょうか。
この記事では、ドラマで使用されたクラシック音楽を紹介したいと思います。
さよならマエストロ-第1話-
- ヨハン・シュトラウス二世:ポルカ「狩り」
西島秀俊さん演じる夏目俊平が、正指揮者のかわりとして指揮者デビューを果たすシーンで演奏される曲です。
ウィーンフィルのニューイヤーコンサートでもたびたび登場する曲で、最近だと2022年に演奏されています。
下のプレビュー再生の最後のところでピストルの音がします。ドラマの中でも、夏目がパーンとやってましたねw
- シューマン:交響曲第3番 変ホ長調「ライン」
ポルカ「狩り」の次に演奏されていた曲がシューマンの交響曲。
通常オーケストラの演奏会では、最初に前菜のような短めの曲、間に中くらいの長さの曲を挟んで、最後に交響曲などのしっかり長めの曲が演奏されます。さよならマエストロでいえば、前者がヨハン・シュトラウス二世のポルカ「狩り」(2分くらい)、後者がシューマンの交響曲「ライン」(40分くらい)。
どちらかと言えば後者の方がメインディッシュのようなものですし、プロとしては指揮を投げ出すわけにはいきませんね。
ところで、「ライン」というタイトルはシューマン本人が付けたのではありませんが、ライン川やそれを取り巻く環境に感化され、作曲されています。そしてこの交響曲が作曲された4年後に、そのライン川で投身自殺を図るというのは有名な話。「格差婚」と言われるほど、シューマンの妻は超有名なピアニストでした。それに嫉妬して病んでいったとも言われています。
とはいえ、交響曲「ライン」が作曲されたころは比較的元気なころで、壮大でとても美しい曲です。
- ベートーヴェン:交響曲第5番 ハ短調「運命」
さよならマエストロ第1話のメイン曲ともいえる「運命」。
冒頭のダダダダーン!というフレーズについて、「運命はこのようにして扉を叩くのだ」とベートーヴェンが説明したというのは有名な話です。
しかし、この話を書いたベートーヴェンの弟子の伝記は、話しの多くを捏造していることが後の研究で明らかになっており、信ぴょう性はありません。
別の弟子によると、鳥の鳴き声だとベートーヴェンが言っていた、という話もあります。
真偽は不明のままですので、ドラマのように、みんなで話し合ってアイディアを出す、というのも面白いですね♪
\ ベートーヴェン捏造秘話はこちら/
さよならマエストロ-第2話-
- ロッシーニ:歌劇「ウィリアム・テル」序曲
第2話のメイン曲が「ウィリアム・テル」。11分くらいの短い曲ですが、第1部から第4部に分かれており、第4部の「スイス軍隊の行進」が最も有名です。
フランツ・リストがピアノソロに編曲しているものもあるのですが、リストらしい超絶技巧を要するダイナミックな演奏になっていてとっても素敵です!
下の音源は、プレビューでは残念ながら1:30しか試聴できないのですが、9分22秒のところから有名な第4部が始まるので、Apple Musicが聴ける方は聴いてみてください♪
Apple Musicを利用したことのない方は、1ヵ月無料体験もあります。Apple Musicのクラシック専用アプリも1/24からリリース開始になっていますよ♪
リスト編曲 ピアノ版「ウィリアム・テル」
オーケストラの「ウィリアム・テル」
- ヨハン・シュトラウス二世:エンペラーワルツ(皇帝円舞曲)
當真あみさん演じる谷崎天音が、オケに入りたい!とやってきたときに口ずさむ曲。
ヨハンシュトラウス “二ヨ”というシーンは可愛らしかったですね。
さて、二世というからには一世もいて、ヨハン・シュトラウス一世は「ワルツ王」と言われるほど、当時のウィーンの舞踏会やコンサートを牛耳っていました。
しかし、息子が音楽家になることは猛烈に反対して、シュトラウス二世が自分のお小遣いをためて買ったバイオリンをたたき割ったり、デビューコンサートができないよう裏から手を回したりとあの手この手で妨害しようとします。
それにもめげず、見事成功をおさめたヨハン・シュトラウス二世もまた、「ワルツ王」と言われるまでになりました。(一世とかぶっちゃったので、父の方は「ワルツの父」と呼ばれるように。)
ちなみに、シュトラウス一世はDVなどの問題もあったようで、シュトラウス二世が音楽家デビューした年に、すぐさま奥さんに離婚されています。そして亡くなった際に一緒にいた愛人は、ご遺体はそのままに財産だけもっていなくなったそうです。
ヨハン・シュトラウス一世のこの曲は、知らない人はいないと言えるほど有名な曲
※2024年ウィーンフィルニューイヤーコンサート音源
- バッハ:チェロ組曲第6番
佐藤緋美さん演じる羽野連が工場で演奏していた、チェロの曲です。
この曲は以下の6つの曲で構成されています。
- プレリュード
- アルマンド
- クーラント
- サラバンド
- ガヴォット
- ジーグ
この組曲は、5本弦のチェロで演奏されることを前提に作曲されているため、現在主流の4本弦のチェロで演奏するのは非常に難易度が高いそうです。
随分まえに表舞台から姿を消した羽野連が今でもこの曲が弾けているということは、チェロの演奏技術が衰えていない、ということをうかがい知れるシーンなのかもしれませんね。
俊平が訪れてきたときに蓮が演奏していた曲は、チェロ組曲第6番の中の「サラバンド」でした。
俊平が、次はこれだったかなと鍵盤ハーモニカでおもむろに弾き始めたのが「ジーグ」。「ガボット」を抜かしていますね。
蓮が、違いますと言って「ガヴォット」を弾き始め、二人のセッションが始まりました。
- メンデルスゾーン:バイオリン協奏曲 ホ短調
芦田愛菜さん演じる俊平の娘、響の回想シーンで演奏されている曲です。
世界3大バイオリン協奏曲の一つと言われています。
通常はオーケストラをバックに演奏されるのですが、コンクールなのでピアノ伴奏で演奏するシーンになっていましたね。
そして晴見フィルの楽譜を片付ける際に、響が手にしていたのはおそらくオーケストラ用の楽譜。
コンクールに挑戦する腕前の人なら、オーケストラをバックにソリストとして演奏することも憧れたかもしれませんね。
回想シーンで流れたのはしっとりとした第2楽章ですが、第1楽章は華やかで情熱的な曲となっており、発想標語(楽譜の最初に書いてある曲のイメージを伝える標語)がまさに“あれ”になっています。
第2楽章
第1楽章
さよならマエストロ-第3話-
- ベートーヴェン:交響曲第6番「田園」
第3話のメインテーマ曲となっていたのが「田園」。
ベートーヴェンの交響曲全9曲のうち、唯一ベートーヴェン自身がタイトルを付けた曲です。
(他のほとんどのタイトルは俗称であり、他の人が付けたものです)
さらにベートーヴェンはこの交響曲の各楽章に、「田舎に到着したときの愉快な感情の目覚め」、「小川のほとりの情景」などの標題も付けています。
チェロの羽野蓮がトランペットとティンパニーにダメ出しをしていたのは第4楽章の「雷雨、嵐」。まさにオケメンバーにとっては雷雨のようなどんよりとした空気感のシーンでしたw
そしてお客さんの前で演奏した本番の時も、第4楽章のところで本物の雷雨に見舞われましたねww
ちなみにベートーヴェンの時代、音楽で何かの情景を描くことはナンセンスなことでした。
ベートーヴェン自身も、この曲が田舎の情景を音で表現したものではなく、そのような情景を見たときに沸き起こる人間の「感情」を表現したものであると説明しています。
第4楽章 「雷雨、嵐」
- メンデルスゾーン:バイオリン協奏曲 ホ短調
いよいよ響がバイオリンを手にしました…!
弾いていたのはメンデルスゾーンのバイオリン協奏曲 第1楽章。その中でもバイオリンの一番の見せ場、カデンツァと言われる箇所です。
協奏曲(主役の楽器1台とバックにオーケストラ)では、主役の楽器の見せ場として「カデンツァ」というのがあるのが一般的で、その部分だけ楽譜がなく、演奏者が自由に即興で演奏するのが通例でした。
それを打ち破ったのが何を隠そう、ベートーヴェン先生。
ベートーヴェンは、自分がつくったピアノ協奏曲は自分がピアニストとして出演していたのですが、耳が聞こえなくなるにつれて他のピアニストに出演を依頼しなければならなくなりました。
そうなると、カデンツァの部分に他人の即興演奏が入ってしまいます。
それはいやだ!ということでカデンツァをなくし、すべての部分を楽譜に書き起こしたのがピアノ協奏曲「皇帝」。
メンデルスゾーンはベートーヴェンの影響を受けて、バイオリン協奏曲のカデンツァを即興演奏ではなく、一音一音、すべて楽譜に書き起こした、とも言われています。
そう、ベートーヴェン先生は偉いのです!
さよならマエストロ-第4話、第5話-
第4話、第5話は同じメインテーマでストーリーが展開されていました。
- ロッシーニ:「セビリアの理髪師」序曲
第2話で登場した「ウィリアム・テル」と同じ作曲家、ロッシーニが作曲した作品です。
「セビリアの理髪師」は三角関係を題材にしたオペラです。オペラとは、ミュージカルと同じようにストーリーがあります。
「セビリアの理髪師」は、ある裕福な伯爵が、美しい娘ロジーナに恋をするところから始まります。
伯爵は、自分そのものを愛してほしいと「貧乏な学生」だと身分と偽り、ロジーナに近づきます。
しかしロジーナには、彼女の美貌と財産を自分のものにしようとたくらむ後見人がいました。
そこで伯爵は、町の何でも屋、ずる賢い理髪師フィガロの助けをかります。
あの手この手で邪魔をしようとする後見人でしたが、頭の回転の速い理髪師フィガロによって、伯爵とロジーナは結ばれる、というストーリーです。
「さよならマエストロ」第4話、第5話でメインテーマとなった“序曲”というのは、このオペラの幕が上がる前に観客の期待を高めるオープニング曲のようなものです。
もちろん、オペラ本編にはたくさんの歌曲が使われているので、興味のある方は一度聞いてみてください!
まとめ
さよならマエストロではたくさんのクラシック曲が登場するので、毎回楽しみですね♪
よく知っているクラシック曲でも、その曲の背景を少し知るだけで、また違ったように聴こえてきます。
わたしは前に、Amazonのだれなに?クラシックというオーディオブックを聴いてすごく勉強になったので、また聴きなおしたいと思いました。
Apple Musicでは、クラシック専用アプリ「Apple Music Classical」もリリースされたので、これからもっともっとクラシック音楽を聴いていきたいと思います♪