クラシック音楽の中でも人気の高い「ピアノ協奏曲」。
ダイナミックなピアノの音と、壮大なオーケストラの掛け合いに思わず引き込まれますよね。
今はYouTubeや音楽サブスクがあるので、ピアノ協奏曲を聴いてみようと思えば、ベートーヴェンにショパン、ラフマニノフと、誰もが知っている名曲にはすぐにたどり着けます。
と、この記事では趣向をかえて、ちょっと珍しいピアノ協奏曲をご紹介したいと思います。
もし知っていたら、なかなかのクラシックマニアかもしれません!
①モーツァルトの末っ子、F.X.W.モーツァルト
フランツ・クサーヴァー・モーツァルト :ピアノ協奏曲第2番 変ホ長調 K.39
モーツァルトって、そうです。あのモーツァルト。の、息子です。
まず、だれもが知るあのモーツァルトの正式名称は、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。
彼には息子が2人いました。実際、子どもは6人だったのですが、大人になったのはそのうち2人のみ。他の子たちは、乳幼児のうちに亡くなっているそうです。
そして息子2人のうち、長男のカール・トーマス・モーツァルトは音楽の道に進みませんでした。
それで、ここで紹介するのは末っ子で4男のフランツ・クサーヴァー・ヴォルフガング・モーツァルトの作品です。
モーツァルトの息子といっても、モーツァルトが亡くなった時、末っ子のフランツはまだ4か月だったそうなので、音楽の教育を直接受けたわけではないようです。
さて、紹介したい曲、ピアノ協奏曲第2番 変ホ長調 K.39ですが、父親譲りの優雅さが光りながらも、彼自身の個性も発揮されています。
父親のモーツァルトはひょうきんで面白い人だった(変わり者で下品というのはここでは置いておく)と言われているように、末っ子のフランツも、きっと楽しい人だったんだろうな、と思わせてくれるような、明るく、聴き手に心地よい作品です。
– ピアノ協奏曲第2番 変ホ長調 K.39 –
第1楽章
第2楽章
第3楽章
②ベートーヴェンの愛弟子、リース君
フェルディナント・リース:ピアノ協奏曲第3番 Op.55
リース君、というとピンと来る人もいるかもしれません。
ちょっと前に流行った「運命と呼ばないで」の本に出てきた、あのリース君です。
(特に耳が聴こえにくくなってからは)ほとんど弟子を取らなかったベートーヴェンの“愛弟子”といわれているのですから、すごい名誉です。
16歳でベートーヴェンの元に来てから約4年間、ベートーヴェンにみっちりしごかれたリース君。
ピアノのレッスンはもちろん、汚部屋の掃除に写譜の手伝い、散歩の付き添いや喧嘩の仲裁…。(くわしくは「運命と呼ばないで」を読んでみてくださいw)
あのクセ強ベートーヴェンの14歳も年下でありながら、友人のような関係も築いていたというので、よっぽどできた人間だったのでしょう。
リースのコンサートピアニストデビューはベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番。ベートーヴェンがとても大切にしていた曲です。そんな曲を、若造の初舞台に弾かせてあげるのですから、彼に相当期待していたのだと思います。
この曲には即興演奏の部分があるのですが(カデンツァという)、事前に師匠に「こんなカデンツァにしようと思う」と相談していたものは、難しすぎるからやめておけ、と止められていました。
にも関わらず、本番でそれをぶち込んできたリース君。結果は大大成功!ベートーヴェンも大喜びしたのでした。
リースがどんなカデンツァを弾いたのかはもうわかりませんが、のちに作曲家としても歩み始めた彼の代表作ともいえるのが、ここで紹介するピアノ協奏曲第3番 嬰ハ短調 Op.55。
ベートーヴェンを喜ばせたカデンツァの片鱗を垣間見ることができるかもしれません。
ちなみに、リースのピアノ協奏曲は、ショパンやリストが駆け出しのころによく演奏していた、とのことです。
ピアノの存在感が光る一曲です。
– ピアノ協奏曲第3番 Op.55 –
第1楽章
第2楽章
第3楽章
③ショパンに影響を与えたジョン・フィールド
ジョン・フィールド:ピアノ協奏曲第2番 変イ長調 H.31
ジョン・フィールドというと、クラシックにちょっと詳しい人なら、「ノクターン」の創始者として聴いたことがあるかもしれません。
ショパンがノクターンを作曲したのは、ジョン・フィールドのノクターンを聴いて影響を受けたからです。
フィールドは、リストやショパンがデビューする前からバリバリに活躍していた人。
ちょうどショパンとベートーヴェンの間の世代です。
アイルランド生まれで、ロマン派のはしりともいわれるフィールドは、ピアノ協奏曲を7つ作曲しています。
特に、ピアノ協奏曲第2番 変イ長調 H.31は、彼の代表作の一つ。フィールドの繊細で優雅な作風をよく表しています。
彼のノクターンしか知らない人にも、ぜひ聴いてほしい一曲です。
– ジョン・フィールド:ピアノ協奏曲第2番 変イ長調 H.31 –
第1楽章
第2楽章
第3楽章
④メンデルスゾーンの弟子、友人 F.フランク
エドゥアルト・フランク:ピアノ協奏曲第1番 ニ短調 Op.13
エドゥアルト・フランク、という名前を聞いたことがないという人は多いかもしれません。
エドゥアルト・フランクは、ドイツの作曲家でありピアニスト。メンデルスゾーンやシューマンの、ちょっとだけ下の世代です。
彼の家は裕福で、父親も教養の高い人だったので、彼の家にはメンデルスゾーンやワーグナーなど、ドイツの著名な文化人が頻繁に訪れていたそうです。
その関係で、メンデルスゾーンに音楽を師事し、さらには親しい友人として一緒に連弾コンサートを開くことも。
当然ながら彼の初期の作品は、メンデルスゾーンの影響を受けた作風になっています。シューマンとも親交を結び、シューマンも彼の音楽を高く評価していたそうです。
そんなエドゥアルト・フランクの音楽がほとんど知られていないのは、①彼が音楽教師として優秀で、そちらに時間をとられ過ぎてしまったこと、②自分の音楽にストイックすぎて作品を練り過ぎてしまい、なかなか発表できなかったこと、が原因と言われています。
彼は古典派とロマン派の中間に位置すると言われていますが、ここで紹介するピアノ協奏曲第1番は、ロマン派のピアノ協奏曲が好きな方にはぜひおすすめしたい一曲です。
ピアノが技巧的でエネルギッシュ、かつ、ロマンティック。とてもカッコいい曲です!
– ピアノ協奏曲第1番 ニ短調 Op.13 –
第1楽章
第2楽章
第3楽章
⑤エジプト旅行の思い出、サンサーンス
カミーユ・サン=サーンス:ピアノ協奏曲第5番 ヘ長調 Op.103 「エジプト風」
サン=サーンス。
エジプト風。
ん?聞いたことある…。
と思われた方。もしや、N響ではありませんか?
2023年5月のN響定期公演で、フランス近代音楽の巨匠パスカル・ロジェをソリストに迎えて演奏され、その模様が2023年7月のクラシック音楽館で放送されていました。
さらに、「最も心に残ったN響ソリスト2022-23」で1位に選ばれ、12月にまた再放送されていました。
サン=サーンスは有名な作曲家ですが、このピアノ協奏曲第5番は、演奏されることが珍しい曲だそうです。
このピアノ協奏曲はそのタイトル通り、サン=サーンスがエジプトを訪れた際の印象を取り入れて作曲されています。
エジプトの大地を旅するかのような第1楽章、そこで感じた風景をそのまま音楽で表現したような、異国情緒あふれる第2楽章、そしてピアノが軽快に駆け巡り、明るくリズミカルなフィナーレが展開される第3楽章。
エキゾチックで技巧的なこの曲が魅力的なのもそうだけど、パスカル・ロジェの演奏もすごく良かった!
立体的で厚みがある音なのに、優しく繊細でもある。
「参りました!」と思わずひれ伏したくなるような圧倒的な技術。
【N響×パスカル・ロジェ】のサン=サーンスがどこかでアーカイブされているのかはわかりませんが、【ロイヤル・フィル×パスカル・ロジェ】の1978年の録音ならサブスクで聴けるので、サブスク使ってる方は是非聞いてみてください!
– ピアノ協奏曲第5番 ヘ長調 Op.103 「エジプト風」-
第1楽章
第2楽章
第3楽章
まとめ
いかがでしたか?今回は、あまり知られていないけれど、ぜひ知ってほしいピアノ協奏曲の名曲を5つご紹介しました。それぞれの曲に、作曲家たちの個性や時代背景が反映されており、名曲と呼ばれるにふさわしい魅力が詰まっています。
有名なピアノ協奏曲も素晴らしいですが、こういった隠れた名曲に出会うことで、クラシック音楽の世界がさらに広がるはずです。少しマイナーな作品にも耳を傾けて、新たな音楽の魅力を発見してみてください!
次に聴くピアノ協奏曲の選択肢が増えたなら、とても嬉しいです。それでは、素敵な音楽ライフをお楽しみください!