フルートは、透明感のある澄んだ音色が特徴の木管楽器です。
息遣いや奏者の表現によって、繊細さや力強さなど多彩な音色を生み出すことができ、さまざまな感情を表現する楽器としても魅力的です。
そんなフルートの持つ透明感と優雅さを存分に味わえるクラシック音楽の名曲を、15曲に厳選しました。
各曲が持つ個性や背景に触れながら、フルートの美しい世界を探訪してみませんか?音楽をもっと楽しむきっかけとして、ぜひお読みください。
フルート独奏曲
J.S.バッハ:無伴奏フルートのためのパルティータ イ短調 BWV1013
バロック時代のフルート独奏曲と言えば、この曲。
ヨハン・セバスチャン・バッハによるこの作品は、このあとに紹介するC.P.Eバッハの無伴奏フルートソナタ、テレマンの12の幻想曲とともに、18世紀における無伴奏フルート独奏曲の最高傑作と言われています。
以下の4つの舞曲形式で構成されています。
- 第1楽章 アルマンド
- 第2楽章 クーラント
- 第3楽章 サラバンド
- 第4楽章 ブレー・アングレーズ
アルマンドとクーラントは息継ぎ箇所が極端に少なく、もともとは別の楽器で演奏することを想定して作曲されたのではないかと考えられています。
C.P.E.バッハ:無伴奏フルートのためのソナタ イ短調 H.562
“一番有名なバッハ”であるJ.S.バッハ(ヨハン・ゼバスティアン・バッハ)は子どもが20人もいたと言われています。
その子どもたちの中でも一番有名なのが、次男のカール・フィリップ・エマヌエル・バッハ(略してC.P.Eバッハ)。彼らが生きていた当時は、父親よりも有名だったそうです。
現代では、お父さんバッハがあまりにも有名になり過ぎて、影が薄れてしまってはいますが、次男バッハが培った「多感様式」の音楽スタイルは、ハイドンやモーツァルト、さらにはベートーヴェンにまで大きな影響を与えています。
「多感様式」とは音楽のスタイルのひとつで、個人の繊細な感情を音楽の中で表現することを重視しています。
このソナタでも、メロディやリズムが突然変化したり、トリルなどの装飾音を多用することにより、感情の変化や微妙なニュアンスを表現しています。
\ バッハ親子の無伴奏フルート 2作品の合本 /
G.P.テレマン:無伴奏フルートのための12の幻想曲
ゲオルク・フィリップ・テレマンは、バッハやヘンデルと同時代の作曲家で、彼らの友人でもありました。ひとつ前で紹介したバッハの次男、カール・フィリップ・エマヌエル・バッハの名付け親でもあります。
次男バッハは、父親よりも、このテレマンの音楽から影響を受けたそうです。
バッハの曲を聴いていると、何か“深奥な世界に没入したような気持にならないといけない”ような気がしてしまうのはわたしだけでしょうか…。
対してテレマンの音楽は、バッハよりもエンターテイメント性があり、とても親しみやすいです。
ちなみに、テレマンは非常に多くの曲を作曲していて、「クラシック音楽の分野で最も多くの曲を作った作曲家」としてギネス認定されているそうです。
ドビュッシー:シランクス L.129(独奏)
時代が一気にとびますが、みんな大好きドビュッシーも、フルートの独奏曲を作曲しています。ピアノ以外の独奏曲は、このシランクスのみだそうです。
当初は「パンの笛」と名付けられていましたが、すでに同名の作品があったため、「シランクス」へと変更されています。
ちなみに、「パン」というのは食べ物のパンのことではありません。
パン、もしくはパーンという、ギリシャ神話にでてくる牧神の名前です。シランクスは、そのパーンが恋する美しい妖精の名前です。
ドビュッシーの音楽といえば、独特な和音の響きが特徴ですが、フルート独奏では和音を用いることはできませんね。
それなのに、浮遊感があり、調性があまり感じられない独特の響きを生み出しているところが、まさにドビュッシー!という感じがします。
アルテュール・オネゲル:牝山羊の踊り H39(独奏)
フランス近代の作曲家であるオネゲル。20世紀前半にフランス音楽をけん引した作曲家グループ「フランス6人組」のうちの一人です。
静かな丘の向こう側からめ山羊がやってきて、リズミカルに、時にゆったりと踊り回る。そんな様子が表現されています。
短い作品ながらも、高度なテクニックと表現力が要求される曲です。
フルート二重奏曲
ベートーヴェン:フルート二重奏曲 アレグロとメヌエット ト長調 WoO 26
ベートーヴェンが生まれ故郷であるボンにいた頃の1792年8月、友人のために作曲した作品です。
ハイドンへの弟子入りが決まったのがその年の7月、ウィーンに出てきたのが11月なので、ウィーン行きが決まり、旅立ちを前に胸が高鳴る中、友へお別れのプレゼントとして曲をあげよう…ってなんて素敵なんでしょう。
ベートーヴェン、22歳の夏。偉大なる楽聖の、青春の1ページです。
W.F.バッハ:2本のフルートのための6つの二重奏曲
お父さんバッハ(J.S.バッハ)と次男バッハ(C.P.E.バッハ)の曲は先に紹介しました。
ここで紹介するのは、長男バッハのヴィルヘルム・フリーデマン・バッハ(略してW.F.バッハ)の作品です。
W.F.バッハは、父親みずからによる熱心な音楽教育を受けたり、父親のコネで教会オルガニストに就任したりと、子どもたちの中で一番の寵愛を受けていました。
にも関わらず、気難しくだらしない性格が災いして、父親の死後は定職にもつかず、父親の自筆譜の多くを売り払ってしまうほどに困窮した日々を過ごしました。
ただ、お父さんバッハは、何も「長男だから」という理由だけで寵愛していたわけではありません。かれの「音楽の才能」に一目置いていたのです。
そんな長男バッハの作風は、父親の影響を受けた巧みな対位法を用いながらも、より自由で、感情もより豊かに表現しています。
また、バロックから古典派音楽への移行期に生きた彼の音楽には、前期古典派的な特徴や、ロマン派音楽への先駆的な要素も含まれています。
ピアノとフルートの小品
フランツ・ドップラー:ハンガリー田園幻想曲
ドップラーは、19世紀に活躍した、ハンガリー生まれのフルート奏者・作曲家です。
18歳でブダペスト歌劇場の首席フルート奏者、その後ウィーン宮廷歌劇場の首席フルート奏者から首席指揮者の地位へと昇り詰め、1864年から1867年までウィーン音楽院のフルート科の教授も務めています。
ドップラーの作品は、フルートの高い技巧を要求するパッセージが多く、特に快速なスケールや華やかな装飾音が特徴です。
ドップラーといえば「ハンガリー田園幻想曲」が有名で、ハンガリーの民族音楽を基にした旋律とリズムを特徴としています。
ピアノソロ用にアレンジされた楽譜もあったので、フルートは吹けない…という方も、ぜひチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
フィリップ・ゴーベール:ファンタジー
ゴーベールは、20世紀前半に活躍したフランスのフルート奏者、指揮者、作曲家で、パリ音楽院フルート科の教授や、パリ音楽院管弦楽団の首席指揮者も務めた人物です。
ゴーベールの音楽は、フランスらしいエレガントな雰囲気に加え、詩的なメロディが特徴的です。
この「ファンタジー」は即興的な要素も感じられ、速いパッセージや装飾音符、音域が広いことなど、高度な技術が要求される曲です。
フルート・ソナタ
プーランク:フルート・ソナタ
フルート・ソナタというと、このプーランクの作品が挙げられることも多い、有名な作品です。
プーランクは、この記事の上の方で紹介したオネゲル(『牝山羊の踊り』を作曲)と同じく、20世紀前半にフランス音楽をけん引した作曲家グループ「フランス6人組」のうちの一人です。
パリの裕福な家庭に生まれたプーランクですが、製薬会社を経営していた父親に跡取りとして期待されたため、音楽学校で学ぶことはできませんでしたが、17歳の時に、ドビュッシーやラベルの作品を多く初演したピアニスト リカルド・ビニェスに弟子入りしています。
ちなみに、上の音源はプーランク本人がピアノを演奏している録音です。
カール・ライネッケ:フルート・ソナタ「ウンディーネ」Op.167
ライネッケは、ベートーヴェンが亡くなる2年前に、ドイツで生まれました。
12歳でピアニストデビューし、メンデルスゾーンやシューマンに師事、その後27歳の時には、フランツ・リストの子どもたちにピアノのレッスンをしています。
そんなピアノの名手が作曲したこの「ウンディーネ」は、ピアノパートも早いパッセージが多く含まれており、非常に高度な技術が必要な作品です。
作品名である「ウンディーネ」とは水の精霊のことで、ウンディーネと悲劇的な恋を描いた小説がもとになっています。
情熱的で、時にロマンティック、そして大きな水の流れのような動きを表現して、物語性の強い構成です。
フェルディナント・リース:フルート・ソナタ 変ホ長調 「感傷的なソナタ」 Op.169
リース君、というと、ピンとくる方もいるかもしれません。
少し前に流行った、ベートーヴェンと弟子のリース君 W主演のマンガ本、「運命と呼ばないで」に出てきた、あのリース君です。
リース君は「ベートーヴェンの愛弟子」として有名ですが、作曲もたくさんしています。
特にピアノ協奏曲が有名ですが、このフルート・ソナタもとても素敵な曲です。
やはりどこかベートーヴェンっぽくて、でもどこかロマン派のような雰囲気がある作品です。
ベートーヴェン:フルート・ソナタ 変ロ長調 Anh.4
ベートーヴェンの作品番号は、通常「Op.」です。この作品に用いられている「Anh.」は、“かつて彼の作品だと考えられていたが、後に疑わしいとされた作品や、未完成の作品、断片的な作品”に付けられます。
このフルートソナタAnh.4は、ベートーヴェンの遺品の中から見つけられたものの、筆跡がベートーベンのものではないと思われること、そして和声やメロディの扱い方が彼の他の作品とは異なることのため、現在ではベートーヴェンの作品ではないとみなされています。
それでも、フルートとピアノの作品としては十分魅力的な作品で、演奏の技術的にもあまり難しくないため、初学者にも親しみやすい作品です。
三重奏曲
ベートーヴェン:セレナーデ 二長調 Op.25(フルート、バイオリン、ヴィオラ)
ベートーヴェンが31歳の時に作曲した、フルート、バイオリン、ヴィオラのための作品です。低音楽器が入っておらず、珍しい編成と言えます。
フルートが軽快にメロディーをリードする部分が多く、全体的に華やかで楽しげな雰囲気があります。
6つの楽章から成り、特に第1楽章のエントランスと第4楽章のアンダンテが人気です。
ベートーヴェン:フルート三重奏曲 ト長調 WoO 37(フルート、ファゴット、ピアノ)
ベートーヴェンが15歳の時に作曲した作品で、ベートーヴェンが公式に発表した作品ではなく、彼の死後に遺品の中から発見されたものです。そのため、Op.ではなくWoOに分類されています。
フルート、ファゴット、ピアノという珍しい編成で書かれていて、異なる音色を巧みに組み合わせています。
珍しい楽器編成で作曲される場合はたいてい、特定の誰かのために作曲されていることが多いものです。
この曲は、ベートーヴェンのピアノの生徒の父親であるアマチュアのファゴット奏者のために書かれたと思われるそうです。
まとめ
フルートの魅力を存分に味わえる楽曲を15曲 厳選してご紹介しました。
それぞれの作品が持つ美しさや独自の響きを通じて、フルートの豊かな表現力を再発見していただけたかと思います。初心者の方から愛好者の方まで、どなたにも楽しんでいただける楽曲ばかりです。ぜひ、これらの名曲を通じて、フルートの素晴らしさをさらに深く感じていただければ幸いです。